わたしが決めるということ / あのひとは蜘蛛を潰せない(彩瀬まる)
親にかけられた呪縛と戦っている人は、この主人公は自分だ、と思うだろう。
温かいごはんを毎日用意し、娘が帰るまで食べずに待っていたり、
高価な服や化粧品を買い与えたりと過保護な一方で、
「頭が悪い」「脚が太い」とけなす言葉を放つ。
そんな母親と二人で暮らす28歳の主人公の梨枝は、
息苦しさを感じつつも、母親から離れることができずにいる。
幼かった息子を亡くし、夫が愛想を尽かして出ていき、
女手ひとつで育てた息子も結婚を機に家を去る。
そんな母を「かわいそう」に思って。
しかし、大学生の三葉くんと付き合いだしたのをきっかけに、
梨枝は家を出て、少しずつ変わりはじめる。
「きちんと」「ちゃんと」しなきゃと、
実体のない規範に縛られている梨枝を、とても痛々しく感じる。
その一方で、それはまるで自分自身の鏡写しなのだ。
「正しさ」なんていうものは絶対的に存在するわけじゃない。
他の誰でもない、わたしが、自分で決めるのだ。
傷つきながらその結論にたどり着く姿に、力をもらう。
特に、過保護な親に息苦しさを感じている人にぜひ読んでほしい。